更新日:2024.03.12 公開日:2024.03.12 身近な湿度のおはなし

湿度の変動から宝物を守るスギ

花粉症シーズンのピークに入りました。
花粉症の原因となる花粉にはいくつかの植物がありますが、患っている方の約70%がスギ花粉症です。
日本にはスギの木が大変多く、スギ林の面積は国土の12%を占めています。
スギの木を全部切ってくれー!という声が聞こえてきそうですが、
今回は、そんなスギの良い一面をご紹介します。


スギの木の良いところ、それは調湿効果です。
木材として、他の種類と比べて湿度を調整する効果があります。
スギ木材は無数の小さな細胞が集まっている構造のため、湿度が高い環境では空気中の水分を取り込み、
乾燥しているところでは水分を放出しています。

そんなスギの特長を利用して、何世紀も前から国の大切な宝物を守ってきた場所があります。
それは、東大寺の境内にある「正倉院」です。
8世紀に建てられ、奈良時代を中心とした多くの宝物が保管されていますが、
保存状態が大変良いことで有名です。

正倉院は長期間、勅封管理がなされていたため、
外気の出入りが少ないことがその理由の一つと言われていますが、
もう一つ、宝物を良い状態で保管できた理由として、スギで制作された「唐櫃」の存在があります。
宝物を納めて保管している唐櫃は、スギ木材の調湿効果に加えて、
脚が付いていることも湿度管理において重要な役割を果たしています。
脚が付いていることで、建物の床から離れているため、
倉と唐櫃によって二重の空気の壁ができています。
それによって、外気の湿度変化に影響されず、宝物の保存に適した湿度を維持しているのです。

正倉院で行われた調査でも、唐櫃内では温湿度の変動が少なく、
特に湿度の変動は非常に少ないことが分かっています。
調査結果の相対湿度のデータ※を見ると、1日のうちの最高値と最低値の差を平均すると、
外気では44%、正倉院正倉内の6箇所では6.8~9.8%の日較差が計測されましたが、
唐櫃内ではわずか0.6%でした。
つまり、唐櫃内では外気の気候の影響をさほど受けず、相対湿度の急激な変動が起きていないことが分かります。
そして、奈良時代から10世紀以上、重要な文化財を守ってきた唐櫃は、
令和になった現在も保存容器として使用されています。
※参照:『正倉院紀要(年報)』第25号 正倉の温湿度環境調査(2)

古くからの宝物にとって、湿度の変動は大きなダメージとなります。
スギの唐櫃を利用した保存方法の重要性を、征夷大将軍であった徳川家康もよく分かっており、
家康の名前で献納された唐櫃も保存されているそうです。
化学の発展も進んでいない時代に、その重要性に気づいていたとは、歴史に名を遺す偉人たるやですね。

いかがでしたでしょうか?
スギを見る目が変わりましたか?
もちろん木材になっていると花粉は飛びませんので、花粉症と関係ないと言えばないのですが、
みなさんを苦しめるスギの木にもいい一面があることを知っていただければと思います。

花粉シーズン中は、ぜひ加湿をして対策をしてくださいね!

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