更新日:2024.08.30 公開日:2024.01.25 身近な湿度のおはなし

「紙が風邪をひく」とはどういうこと?

新年の書き初めはされましたか?
学生の方は授業や習い事など、書道に接する機会が多いと思いますが、
大人になると、書き初めの時にだけ書道セットを引っ張り出す、という方も多いと思います。
みなさん、画仙紙・半紙や墨の保管時、湿度管理はできていますか?

実は、何年も前に購入し、長く保管していた画仙紙・半紙を引っ張り出して使用する場合、
新品の紙に書くよりも書きやすいかもしれません。
理由は、しばらく寝かせた紙は繊維がしまり、にじみにくくなり、
また墨色がよく出るなど、書き心地がよくなると言われているためです。
書道家やプロの方は10年以上寝かせる場合もあると言います。

しかし、せっかく長く寝かせていても、保管する環境が悪いと紙は傷んでしまいます。
「半紙が風邪をひく」という言葉をご存じでしょうか?
長期間保管していた紙の状態が悪くなることを表す表現ですが、風情があって素敵な表現ですよね。
「風邪ひき紙」になると、変色してしまう、墨がのりにくくなる、
または書いた時に墨に白い斑点のようなものが出てきてしまうことがあります。

画仙紙・半紙を保管する際は、風邪をひかないように、直射日光を避け、湿度変化の少ない場所に置きましょう。
紫外線に当たると黄ばんでしまいます。
また、「紙は息をしている」ので、ビニール袋など通気性の悪いものに入れていると、
中で蒸れてしまう可能性があります。
吸湿性のある紙で包んで保管するのがおすすめです。

ただし、表面にコーティング剤が塗布されているような加工紙の場合は、
書き心地への影響は無いため、紙が風邪をひく前に、早めに使用しましょう。


長期間保存されている紙と言えば、歴史的に重要な古い書物などは、どのように管理されているのでしょうか。
国立公文書館の書庫では室温22℃、相対湿度55%程度が保たれています。
しかし、25℃、60%以上になると、紙の表面でカビが発生してしまう可能性が高まります。
古い和紙によく見られる、茶色の斑点状のシミ(フォクシング)の発生を抑えるには、
温湿度管理がとても重要です。
参考資料:国立公文書館所蔵資料保存対策マニュアル


和紙の保存についてお話していましたが、実は墨にも湿度管理が大切です。
墨とは、燃やした際に発生する「すす」を、
牛皮などから取ることができる「にかわ」と混ぜて形成したものです。
形成後、乾燥させ固めてから販売しますが、
急激に乾燥させるとひび割れを起こすため、時間をかけて乾燥させます。

製造直後の墨は水分が多く含まれているため、粘りが強く、伸びが悪く感じることがあります。
墨も半紙と同じように寝かせることで「にかわ」と水分のバランスが良くなり、墨の伸びが良くなります。

しかし、こちらも寝かせておく環境が悪いと状態が悪くなってしまいます。
というのも、墨は周りの環境に合わせ、
湿気の多い日は周囲の水分を取り込み、乾燥している日には水分を放出しているためです。
そのため、湿度の変化が激しいところに置いていると、寿命が短くなります。
墨を保管するポイントは、紙と同じように直射日光が当たらず、湿度変化のないところに保管することです。
また、湿気を吸いすぎることがないよう、墨を和紙などでくるみ、桐箱に入れて保管するのがおすすめです。
墨を磨った後は、水分を含んだところから、カビがはえてしまう可能性があるため、
十分に拭き取ってから保管するようにしてください。

保存環境がよく、今でも使用できるものは「古墨(こぼく)」と呼ばれ、価値の高いものがたくさんあります。
製造から数百年たっている古墨の中には、骨董品や美術品として高額で取り引きされているものもあります。
もしかすると、みなさんが新年の書き初めで使った墨が、未来のお宝になるかもしれません!
保管する際は湿度管理に注意してくださいね。

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